眠りの情報館
日々の活力の源となる「眠り」1日の約3分の1を占める、非常に大切なことなのに、考えたり見直したりする機会は少ないですよね。「眠りの情報館」では、より良い眠りの時間を過ごしていただくため、眠りに関するさまざまな情報をお届けします。
眠りの基本構造
私たちが生きていくうえで欠かすことのできない「睡眠」近年、注目されることも多く、眠りに気を使っている方が増えています。そんな睡眠についての知識を深め、自らの睡眠を見直して、体も心も健康になりましょう!
眠くなるしくみ
決め手は疲労と体内時計
私たちは、毎日一定の時間になると眠くなりますよね。これには主に2つの理由があります。1つは「疲労」です。日中の活動で徐々に溜まっていく疲れは、眠気を生じさせます。また、特別な活動でなくても、単に起きている時間が長くなれば疲労は蓄積されていき、体は眠りを欲するようになっていくのです。
もう1つは「体内時計」です。人の身体の中には、約24時間周期でリズムを刻む時計のようなものがあります。この体内時計はサーカディアンリズム(概日リズム)とも呼ばれ、太陽の動きに同調して、意識しなくても心身を日中は活動状態に、夜は休息状態に切り替えるのです。この「疲労」と「体内時計」の2つの要素によって、毎日の睡眠リズムは形づくられます。
体内時計をリセットする光
体内時計をリセットする光
ところで、約24時間といわれる体内時計の周期ですが、個人差があって24時間10分程度とか、約25時間などともいわれています。1日24時間の生活時間に対する差を放置していると、実際の時間と体内時計とがずれてしまうので、リセットしなければなりません。
そのカギは「光」、つまり太陽光です。起床後すぐに朝日を浴びると、体内時計はリセットされ、改めてリズムを刻みだします。それだけではなく、その14~16時間後に眠気を促すメラトニンというホルモンが分泌され、夜の眠りに向かうのです。
眠りと連動する体温の変化
さらに、概日リズムは体温とも関係し、睡眠と覚醒のリズムとつながっています。体温には体の表面の「皮膚温」と、脳を含む身体内部の「深部体温」とがあり、深部体温が下がり始めると眠りにつくことができます。この深部体温の低下は、末梢血管などを広げて体の表面から熱を逃がす熱放散によって起こります。
眠くなった子どもの手足が温かくなるのはこのためで、大人にも同様の現象が起こっているのですが…。その後、眠りが深くなるにつれて皮膚温も深部体温も下がり続け、やがて上昇に転じると目覚める準備を始めます。体温が上がり始めて数時間後には、活動のための体温に戻るので、起床後すぐに活動できるというわけです。
このように、朝の光によって体内時計をリセットすることで、毎日、リズミカルな生活が送れます。このリズムを乱さないために、朝はできるだけ決まった時間に起き、カーテンを(できれば窓も)開けて朝日を浴びましょう。曇り空でも、雪が降っていても、薄暗い光でも十分なので、朝起きたら日を浴びることをルーティンにするのです。「紫外線はパス!」という方は、窓の近くに立つだけでもかまいません。それで新たな1日をスタートさせましょう。
レム睡眠とノンレム睡眠
眠りを構成する2種類の睡眠が交互に出現
「レム睡眠」「ノンレム睡眠」という言葉を聞いたことはありませんか。これらは睡眠を構成する種類です。レム睡眠は、眠りが浅くて目がピクピク動く急速眼球運動(Rapid Eye Movement)が特徴で、英語名の頭文字「REM」をとって名づけられました。このとき、身体は脱力状態ですが、脳は活動して記憶の整理や定着などを行っています。
一方、ノンレム睡眠は、脳の活動が低下して休息モードになるのが特徴です。ノンレム睡眠には第1~4段階の深度があり、睡眠前半は深く長く続き、後半に進むにつれて浅く短くなっていきます。深度は、体の回復、再生の程度や熟睡感につながり、とくに入眠直後に深睡眠(第3、4段階)がしっかり現れれば疲れが取れ、良い眠りになります。
約90分間を1周期とする眠りのサイクル
眠りは、始めにまずノンレム睡眠に向かい、そこからレム睡眠へと移ったあとにまたノンレム睡眠、レム睡眠が交互に現れます。ノンレム・レム併せて1サイクル90~120分間とされていて、1晩に4~5回繰り返され、レム睡眠のときに目覚めるようになっています。
成人の場合、1サイクル約90分間を4回繰り返すパターンが多く、約6時間でも自然に目が覚めれば十分な眠りといわれています。なかには、最初の2サイクルでしっかりと休める場合があり、3時間でも十分な睡眠時間という人もいるのです。
赤ちゃんの眠り
睡眠リズムができて体内時計が作動する
生まれたばかりの赤ちゃんは、お腹が空くと目を覚まし、満腹になると眠る状態を繰り返し、1日のほとんどを寝て過ごします。生後3~4カ月を過ぎると、太陽光の変化や家族との接触時間などを手がかりに、体内時計による睡眠と覚醒のリズムができ始め、徐々に夜間の睡眠が増えて昼間の睡眠が減少していきます。さらに、5~8カ月頃には午前と午後に1回ずつ程度、9~12カ月頃には午後1回程度の昼寝で睡眠は足りるようになります。
赤ちゃんの1日のリズムを整えよう
赤ちゃんの頃は、1日のリズムを形づくる大切な時期です。赤ちゃんの様子を観察しながら、朝は明るく夜は暗いということを教えてください。そして、日中の睡眠が減ってきたら、赤ちゃんがリズムをつくりやすいように、家族や周りの人は環境を整えてあげましょう。
例えば、毎朝一定時刻に「朝ですよ。ぐっすり眠れた?」と声をかけながら起こし、朝日を浴びさせるのです。そして、顔を拭いてあげたり、お気に入りの音楽を流したりと、決まった行動をすることで、赤ちゃんの体内時計はスムーズに動きだし、夜も自然な眠りに導くことができるようになります。
月齢別赤ちゃんの睡眠の特徴
生後1カ月
●1日の総睡眠時間は16~20時間
●睡眠の半分をレム睡眠が占め、眠りが浅い
●入眠もレム睡眠から始まる
●昼夜の区別がつかず、短時間の睡眠・覚醒を繰り返す
生後3カ月
●1日の総睡眠時間は14~15時間
●レム睡眠が減少し、ノンレム睡眠から入眠するようになる
●昼夜の区別がつき始め、体内時計が動きだす
●夜間に少しまとまって眠るようになる
生後6カ月
●1日の総睡眠時間は13~14時間
●昼夜の区別がはっきりしてきて、体内時計がリズミカルに作動する
●昼寝は午前、午後に1回ずつ、数時間とる
●夜間睡眠がさらに長くなる
生後12カ月
●1日の総睡眠時間は11~12時間
●睡眠の8割以上を夜間でとる
●昼寝は午後1回になる
●体内時計がきちんと動き、生活リズムが整う
子どもの眠り
子どもは睡眠中に成長する
「寝る子は育つ」というように、子どもの睡眠は心身の発育・発達に重要な役割を担っています。とくに、骨や筋肉を育て、組織を育成・修復・再生する働きの「成長ホルモン」は、入眠1~2時間後をピークに、朝方まで分泌されるほか、いろいろなホルモンも熟睡中に分泌され、子どもの成長を促しています。また、毎日の睡眠習慣は、朝すっきり目覚め、日中によく学んだり遊んだりでき、夜にぐっすり眠るという規則正しい生活リズムをつくります。
1~2歳 | 11~14時間(うち昼寝で1~3時間) |
3~5歳 | 10~13時間(うち昼寝で1~2時間) |
6~12歳 | 9~12時間 |
13~18歳 | 8~10時間 |
睡眠不足は成長だけでなく学力にも悪影響大
近年、子どもの睡眠不足が大きな問題になっています。最大の要因は遅い就床時刻にあり、1~3歳児の約30%、4~5歳児の約25%が22時以降に寝るというデータが報告されています。
しかも、小学生、中学生、高校生になるにつれて夜型化の傾向は強まり、就床はさらに遅くなるのに起床時刻は変わらないため、睡眠不足は深刻さを増すばかりです。そこには、共働きの親の遅い帰宅、勉強や塾、部活動、24時間営業のコンビニエンスストアやファミリーレストラン、スマートフォンやインターネットの普及などが影響していると見られます。
子どもの生活の夜型化や睡眠時間の減少は、成長の遅れや注意力、集中力の低下、食欲不振、慢性の眠気、疲れやすさなどをもたらします。また、学力への影響も大きく、脳は睡眠中にその日に覚えたことを整理して記憶に定着させるので、しっかり眠らなければ勉強しても身につきません。子どものために健全な睡眠環境を整えるのは、親の役目の1つではないでしょうか。子どもの健やかな成長のために、質の良い眠りを支えてあげましょう。
女性の眠り
女性ホルモンに左右される睡眠の変調
女性の多くは、「月経」「妊娠・出産」「閉経」を通してホルモン変化に大きくさらされることで、睡眠の変調を感じやすくなっています。例えば、日中の強い眠気は月経前の代表的な症状です。これは、排卵後に分泌されるプロゲステロンという女性ホルモンの影響で身体の内部や脳の深部体温リズムの反応が鈍くなり、睡眠時間は足りているはずなのに日中何度も睡魔に襲われたり、眠りが浅くなったりするのです。
妊娠中はいつも眠い!?
強い眠気は妊娠初期にも共通の症状で、妊娠を知らせるサインの1つでもあります。前述のプロゲステロンの影響で、四六時中うとうとしたり、夜の眠りが浅くなったりします。中期になると体調も睡眠も比較的安定しますが、末期には、大きなお腹や子宮の収縮、頻尿、腰痛、赤ちゃんの胎動などの影響で熟睡できずにすぐに目が覚めてしまいます。産休に入る妊婦さんのなかには、昼間のんびりできる生活に油断してだらだら過ごしてしまい、夜に眠れなくなるケースが少なくないと聞きます。
出産後は睡眠不足との闘いの日々
出産を迎え、待望の赤ちゃんに会えた喜びも束の間、生涯で最も急激なホルモン変化、生活変化を受けるのが出産後です。身体の回復に努める大切な時期でもあるのに、赤ちゃん中心の生活に慣れない育児、数時間おきの授乳、分断される睡眠時間……といった大きなストレスにさらされ、寝不足に悩まされっぱなしの日々が続きます。赤ちゃんと一緒に眠ったり、ご家族などにサポートしてもらったりして、短時間でもコマギレでも睡眠時間を確保していかないと、産後うつに移行するおそれがあるので要注意です。
更年期の睡眠トラブルは閉経と加齢が原因
更年期になると、2人に1人は何らかの睡眠トラブルを抱えているといわれています。閉経による女性ホルモンの減少に加えて、家族関係や身体的な不安などのストレスが大きな原因のほか、更年期特有のほてりやのぼせといった症状なども眠りを妨げます。
また、加齢とともに睡眠が浅く短くなってくることも一因です。寝つきが悪い、ぐっすり眠った気がしない、眠りが浅くて目が覚めやすい、朝すっきり起きられないなど、症状はいろいろです。程度が軽ければ深刻に受け取る必要はありませんが、日常生活に支障が出るほどつらい場合は、がまんをせずに専門医の受診をおすすめします。
男性の眠り
睡眠の質に性差があり、男性のほうが劣っている
男性には、性ホルモンの分泌周期はないので、女性ほど顕著な睡眠変調やトラブルはないはずですが、男女の睡眠を比較した研究では、一般に女性のほうが良質な睡眠を得やすいと結論づけていました。年齢差はありますが、成人男女の睡眠を脳波で見比べたところ、ノンレム睡眠中に出るデルタ波やリラックス時に見られるアルファ波などの数値が高いのは女性のほうだったからです。
一方、睡眠時間については男性のほうが長いと報告されました。つまり、睡眠時間は長くても、質に関しては男性のほうが劣っているといえます。この差は身体的な構造や機能によるところが大きく、男女で異なる性ホルモンの分泌量や周期パターンに加えて、それらをコントロールする脳に基本的要因があると考えられます。なお、この脳の違いは、ストレス耐性(ストレスに耐える抵抗力)や生命力に対しても差を生じさせ、どちらも女性のほうが強いとされています。
呼吸器機能も男性のほうが弱い!?
男性の睡眠の質に関しては、呼吸器機能の弱さも要因として指摘されています。特に男性は、空気の通り道である気道の構造が女性よりも狭いこともあり、いびきをかく人が多いようです。あの轟音が眠りに影響しないわけがありません。なかでも、激しいいびきや呼吸停止を引き起こす「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」は、睡眠の質を落とすだけでなく、高血圧や動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞といった生活習慣病とのかかわりが深い病気です。
睡眠中のことで自分では気づけませんが、周囲から指摘を受けたときは医師に相談するといいでしょう。また、オーバーワーク、職場や家族などの人間関係、社会的な責任などのストレスも睡眠を脅かし、生活習慣病のリスクを高めるものです。疲れたときは早めに帰宅し、のんびり過ごすことが効果的です。
高齢者の眠り
特徴的な睡眠の変化は男女共通
年をとるにしたがって性別による睡眠の変調や質の優劣(「女性の眠り」「男性の眠り」参照)は薄れ、睡眠の特徴は男女とも共通してきます。高齢者に多い睡眠の特徴は、眠りが浅く、熟睡感が得られない、就床・起床時刻とも早まる、夜中に何度も目が覚める、なかなか寝つけないなどで、これらの変調は年齢によるところが大きいのです。
老いは、外見や身体の衰えだけでなく、睡眠を支える体内時計、体温、ホルモン分泌などのリズムを崩して睡眠を劣化させます。加えて睡眠のリズムも変わり、深い段階のノンレム睡眠が減って浅い段階が増え、レム睡眠も長くなるので、ちょっとした物音や尿意でも目が覚めてしまうようになります。
特徴的な睡眠の変化は男女共通
メリハリのない日常、退職、家族や友人との死別、独居、社会的な疎外感といった環境の変化やストレスに囲まれて、睡眠のトラブルや症状を訴える高齢者は多いです。また、心身の病気で通院する高齢者も多く、病気への不安や治療薬の副作用も、睡眠障害にかかりやすい要因になります。高齢者に多い睡眠障害はいろいろです。なかでも、一時的に呼吸が止まる睡眠時無呼吸症候群は、脳や心臓へのダメージを考えると、悪化する前に早めの治療が必要です。
特徴的な睡眠の変化は男女共通
認知症を発症すると、浅い眠りがさらに浅くなって1時間も眠れないなど、睡眠と覚醒のリズムは異常に乱れます。夜間の睡眠が不十分ならば日中も眠るようになり、昼夜が逆転しがちになります。また、意識がもうろうとする「せん妄」や、睡眠中の夢に反応しての奇声や暴力的行動が出現する「レム睡眠行動障害」なども見られます。
認知症の睡眠障害は、本人だけでなく介護者の睡眠も妨げます。その負担を軽減するためにも、専門医の指導の下、生活リズムにメリハリをつけて体内時計のリセットに努めるなど、生活全般の見直しや工夫が必要です。